海鮮問屋博多のカニ雑炊/松江

五位は、芋粥を飲んでゐる狐を眺めながら、此処へ来ない前の彼自身を、なつかしく、心の中でふり返つた。それは、多くの侍たちに愚弄されてゐる彼である。京童にさへ「何ぢや。この鼻赤めが」と、罵られてゐる彼である。色のさめた水干に、指貫をつけて、飼主のない尨犬のやうに、朱雀大路をうろついて歩く、憐む可き、孤独な彼である。しかし、同時に又、芋粥に飽きたいと云ふ慾望を、唯一人大事に守つてゐた、幸福な彼である。 
 芋粥: 芥川龍之介
 大好きなものを腹いっぱい食べたい。誰しもそんな夢が叶うことを望んでいます。芥川の〝芋粥〟で主人公の五位は、芋粥を腹いっぱい食べたいという夢の実現を目の前にして急速に食欲が失せてしまいます。
 一方、志賀直哉の〝小僧の神様〟で、小僧の仙吉の目の前に突然現れた議員Aは、仙吉に念願の寿司を腹いっぱい食べさせてくれたことから彼にとって議員Aは神様になってしまいます。いずれにしても〝飽食の時代〟の我々は、五位や小僧のように何か特定のモノに対して猛烈に食べたいという欲望を抱き続けることがだんだん難しくなっているような気がします。
 同居人の食事に対する執着心は、ワタシ程強くありません。しかし、同居人には幸せの芋粥と寿司があります。〝バケツいっぱいのサクランボ〟と〝腹いっぱいになるほどの蟹〟。そういう欲望を明確に意識できることを羨ましく思います。サクランボの夢を叶えてくれた議員Aは、友人のFさん。毎年、山形の佐藤錦をそれこそバケツいっぱい送ってくださいます。もうひとつの蟹を実現しようと今年のクリスマスは、ワタシが議員Bになることにしました。
と、いう訳でクリスマスイブの夜。松江の〝海鮮問屋 博多〟に行きました。
島根県松江なのに博多。訳分かりません。
お店の方に聞いてみると、社長の奥さまが博多出身だとか・・・。そして社長が所有する釣り船も〝博多丸〟。ご夫婦の仲がよろしいこと。
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取りあえずのファーストドリンクは、松江でも、博多でも生ビール。今日は、アサヒスーパードライ エクストラコールド。氷点下のスーパードライ。
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いきなり〝かにみそ〟が出て来ました。
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〝かに茶碗蒸し〟。蟹の量もたっぷりです。
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〝ボイルガニ〟。同居人は、ひたすら蟹の足をニコニコしながら自分の方に引き寄せます。

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 〝活ガニ・旬の魚介類のお造り〟。
新鮮な刺身盛りの中に、蟹足の刺身もたっぷり。
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〝カニのホイル焼き〟。蟹は焼いても美味しい。蟹味噌も焼くと美味しさが一段と増します。甲羅酒で後処理をしたのは言うまでもありません。
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島根県安来・吉田酒造の〝月山〟。美味しい酒です。思わず〝どじょうすくい〟がしたくなります。
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〝カニのクリームコロッケ〟。トッピングにもコロッケの中も蟹の身がたっぷりです。
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〝カニ鍋〟。
先ず、蟹足をしゃぶしゃぶで楽しみます。
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カニでいいダシが取れたところに野菜などを投入。
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 〆は、もちろん〝カニ雑炊〟。
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最初から最後まで蟹・蟹・蟹。もう動けなくなるまで食べ尽くしました。
ところで冒頭の6メートルの巨大蟹の看板の蟹は、〝松葉かに〟のタスキをしていましたが、ホントは〝ズワイガニ〟。〝看板に偽りあり〟  いえいえ、山陰地方で水揚げされた〝ズワイガニ〟のことを山陰地方では、〝松葉かに〟と呼びます。だから松葉かにであって松葉かにでありません。
 今夜は、クリスマスイブ。クリスマスイブに出雲大社を詣で、夜は、チキンでなく蟹。そんなイブがあってもいいのでは・・・。

川京のシジミ雑炊/松江

イメージ 1「畑中さんは、今夜、どんな顔してみえるのだろうなあ」
鰻料理〔川郷〕の店主の園田達夫が言った。
松江市内では名のとおった店だが、間口一間半のカウンターだけの小さな店で、椅子の数は十五席しかない。だから予約しておかないと入れないこともある。
「きっと怒った顔してみえるわよ。あの人、照れ屋だから」
行平鍋で鰻の肝を甘辛く煮付けながら、女将の市子が答えた。
内海隆一郎の短編小説〝鰻のたたき〟の巻頭言。先月(2015年11月19日)78歳で亡くなられた内海隆一郎は、島根県松江にある小料理屋〝川京〟のL字カウンターの一番隅の席にいつも陣取りながら店主の園山達也さんと女将のいち子さんを話相手に杯を傾けていました。
 昭和45年の創業以来、多くの単身赴任のサラリーマンたちに愛されて来た〝川京〟の名物料理は、小説の題名にもなった〝鰻のたたき〟。その名物料理について、店主は、いつもと同じ口上を述べます。
宍道湖と中海の鰻は味が違います。それは、塩分濃度の違いです。中海の塩分濃度は海水の半分。宍道湖は十分の一です。その鰻の中から選りすぐった上物を8種の薬味と一緒にタタキに。〝なめろう〟のようにした逸品です。このような〝鰻のたたき〟は生まれて初めて。そして多くの人がこの味の虜となった理由がひと口食べて分かりました。
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 いつものようにファーストドリンクは、ビール。
同居人とクリスマスを出雲で過ごそうと松江に・・・。蕎麦好きのワタシの当初計画は出雲そばの〝ふなつ〟を訪問の予定。ふなつは夜の営業をやめてしまったのでふなつ訪問は、最終日の昼にして、松江の郷土料理屋として評判の高い〝川京〟に来ました。
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突き出しも心惹かれます。ホタルイカの干物の下は、〝めのは〟と呼ばれる島根特産の〝板わかめ〟の炙りです。その下は、〝変り枝豆〟。ピリ辛に味付けされた枝豆です。
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山茶花の花びらを浮かべたコップ酒。
いち子女将さんのきめ細やかさが随所に現れています。
いち子さんは、昭和24年の鹿児島生まれ。大好きな京都で働こうと国を出ました。ところが途中、松江で達也(昭和22年生まれ)さんに出会って掴まってしまい、以来ずっと松江に・・・。
内海先生もきっといち子さんの魅力惹かれたのでしょう。文庫本の表紙は、いち子さんの後ろ姿。
 いち子さんのおススメは、〝七冠馬〟。奥出雲・横田の〝簸上(ひかみ)清酒合名〟が醸した酒。競馬界最強の名馬と言われた〝シンボリルドルフ〟が前(馬)未踏の七冠達成記念の命名。シンボリ牧場の和田家と簸上正宗の田村家は親戚関係です。
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手前が〝松葉ガニ〟。奥が〝赤バイ貝〟。蟹が大好きな同居人は、黙々と松葉にしゃぶりつきます。
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身が大きくて甘い赤バイ貝は絶品です。
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松葉カニの甲羅のくっ付いた蟹味噌の有効利用は、〝甲羅酒〟。
川京と目と鼻の先にある米田酒造〝豊の秋〟を熱燗にして注いで頂きました。松江の銘酒の豊の秋は、ワタシの大好きな酒のひとつです。
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 宍道湖と言えば、〝蜆(シジミ)〟。赤貝と一緒に酒蒸し。
でも、この酒蒸しの煮汁は他とは違います。ちょっと洋風っぽい味を感じたのは気のせいかな。
めちゃ美味しかったです。
蜆は、暑い時と寒い時が美味しいのですよ。
と、女将さん。前者は〝土用シジミ〟、後者は〝寒シジミ〟と言うそうです。
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宍道湖と中海の魚介類の刺身盛り合せ。
手前左は、鯵。右は、馬頭鯛(マトウダイ)。上に肝が載ってます。奥が鰆。上に乗ってるのは、レベル4の激辛柚子胡椒。
鰆は、文字通り春が旬と考えがちですが脂の乗った今の鰆が一番美味しいですよ。
と、女将さん。柚子胡椒と合わせたところは九州出身の女将さんのセンスなのでしょうね。
一番奥はサザエです。
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 〝安来の豆腐〟。
ミシュランが世界トップ5にランク付けした〝足立美術館〟は、どじょうすくいの安来節で有名な安来にあります。〝安来の豆腐〟は、製造工程で〝おから〟を出しません。蕎麦で言う〝挽きぐるみ〟の豆腐です。濃厚な田舎豆腐の味は絶品。豆腐好きの同居人はウキウキ。
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 出雲は、日本酒発祥の地と言われます。
いち子さんおススメの酒は出雲・酒持田本店の〝ヤマサン正宗〟。
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ヤマサン正宗の酒瓶に〝佐香錦〟とありますが、これは島根県が力を入れている新種の酒米。この〝佐香〟は、お酒の神様を祀っている〝佐香神社〟に因んでいます。この〝佐香神社〟は、別名〝松尾神社〟とも呼ばれています。酒蔵に行くと、神棚があり、この〝松尾様〟を祀っています。
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川京のもうひとつの名物料理が出て来ました。
〝鱸(スズキ)の奉書焼〟。
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開けてみるとほくほくに蒸し焼きされたスズキ君が出て来ました。
目の下八寸ほどの鱸だが、脂がのって丸々している
えらと腹わたを抜いて苦玉とり、塩をふって下ごしらえしてある。これを濡らした奉書紙でくるくる巻き、炭火に載せて、じっくり焼く。すると奉書紙のなかの鱸はほどよい蒸し焼きになる。
刺身醤油にもみじおろしを加え、あつあつの鱸の身を浸すと、淡い脂が浮いてくる。口のなかが、唾液でいっぱいになる。
内海隆一郎の完璧な文章表現です。
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酒瓶を撮り忘れましたが、〝隠岐誉〟。
我が国の文化の多くが、大陸や朝鮮から隠岐諸島経由で渡来しました。島根県から北50キロの至近にある隠岐酒造の銘酒が隠岐誉。縄文人を駆逐した弥生人が勝利した要因は〝製鉄技術〟。〝たたら製鉄〟の遺跡は雲南・奥出雲にあります。出雲は古代ミステリー満載の地です。
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天ぷらは、赤天、白魚、鰻のほねせんべい、せりです。
赤天は、白身魚のすり身に唐辛子を加えてます。
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最後に、カウンター席目の前にあった松江・國暉酒造の〝國暉〟。
〆の酒として相応しいキレがあって旨味を感じる美味しい酒でした。
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〆に〝シジミの雑炊〟。
宍道湖に来たんだと実感しました。
たくさん頂いたお酒で痛めた肝臓も、このシジミパワーできっと明日のすっかり回復。
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初対面のワタシに旧知の仲のように接してくれた達ちゃん。
同居人も初対面と知らずに勘違いしたほどです。
まるで少年みたいだね、あなたの旦那って
同居人に何度も言います。
最後別れる時に、達ちゃんからハグされました。こんな素敵なご夫婦はなかなか居ません。
写真撮るなら、髭剃って来るからと最後までお茶目な達ちゃん。アナタの方が少年です。
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